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第52次日本南極地域観測隊 市川正和隊員の南極越冬記(5)

平成23年6月の報告


第52次日本南極地域観測隊ロゴ

 1. 国内連携訓練

 2. 気象記念日

 3. 初マイナス30度

 4. 大雪?

 5. ミッドウインターフェスティバル

 6. あれから1年

国内連携訓練

 極地南極には多くの危険が潜んでいます。そんな環境の中で我々越冬隊は安全を何よりも優先して、すべての作業を行っています。以前にも紹介しましたが、もし、何か事故が起きた場合でも対応できるように色々な訓練を行っています。

 6月2日、総合訓練ともいえる「昭和基地の非常時を想定した国内連携訓練」が実施されました。

 「国内連携」というのは、TV会議システムによる遠隔医療を利用して、怪我等の治療にあたるケースを想定し、昭和基地でレスキュー訓練を行うと同時に、国内でも遠隔医療による治療を行うための準備、ドクターの手配、怪我を負った隊員の家族への連絡や適切にマニュアル通りに対応できるか等の確認を行うものです。

 昨年は、7月に開催され、私は日本で見学していました。見学していて、感想や問題点を聞かれた記憶があります。

 

 つまり、今回の訓練はその時感じた問題点を克服し、新たな問題も起こさず、しっかりと次隊以降に繋げるものでなくてはなりません。

 いくつかの反省点は残りましたが、大きな問題も発生せず終えることが出来ました。また、このような事故を起こしてはならないと改めて決意するとともに、国内のバックアップ体制に感謝する瞬間でもありました。

気象記念日

 6月1日は気象記念日。

 皆さんご存知でしたか?今年の昭和基地には気象庁の職員が全部で7名派遣されています。その内、気象部門としては5名の隊員がいます。

 気象部門の隊員が毎日、天気予想をしてくれるので、作業のスケジュールを組むことが出来ます。

 気象記念日を記念してみんなでかまくらを作りました。

かまくら

【気象庁職員】

宮本隊長他、全部で7名が気象庁より派遣されています。

 30人全員が入れる大きさです。稚内であれば暖かい日に崩れると危険なので、気温が上がる前に壊してしまうと思いますが、ここではそんな暖かい日は期待できません。

 ブリザードにより入口は塞がってしまうこともありますが、少し掘れば今でも入れるかまくらです。

 6月3日、そのかまくらの中で、みんなでジンギスカンを食べました。

 今年の気象チーフ久光(ひさみつ)さんは、稚内気象台でも勤務経験がある北海道出身者なので、出発前からこの計画を立てていました。

 この日は、気温がマイナス9度くらいで南極としては温かく、隊員全員おいしくいただきました。

  少しですが気象観測の紹介をします。

 気象隊員は毎日交代で24時間観測をしています。

 フロン等により、上空のオゾン層が破棄されることが問題となっていますが、南極上空のオゾン層破壊が進み、オゾンホールが現れることに世界で初めて気付いたのが日本の観測隊なんです。

 その気象観測を私たちもお手伝いさせてもらうことがあります。

 気球に観測機器を取り付け、上空に飛ばし、その機器から送られる位置情報や気温、湿度のデータを基に、風向や風速、気圧を測定する「ゾンデ放球」というものです。(写真)

 このゾンデ放球は世界各地でほぼ同じ時間に行われています。

 稚内でも観測されていますので、気球が飛んで行くのを見たことがある人もいるのではないでしょうか?

 稚内の時間で朝と夜の8時半、時差のある南極では2時半に1日2回行われます。

 毎日、放球しているのがGPSゾンデと呼ばれるものですが、もう一つ、オゾンゾンデというものもあります。季節によって回数は変わりますが、オゾン層の変化を観測するために、いつもよりも大きな気球を飛ばします。

 これは稚内では行っていませんが、日本でも札幌など3か所で行われているそうです。

 気球を飛ばすと言っても、ブリザードが吹き荒れる南極では命懸けの作業となる日もあります。

 気象部門の隊員は外出を禁止されない限り、欠かすことなく観測を続けています。

彼らの毎日の観測は、地球環境の変化を知る上で重要な役割をはたしているんです

初マイナス30度

 昨年暮れに昭和基地入りしてから半年が過ぎましたが、これまでの最低気温はマイナス29度と、30度以下に下がる日はありませんでした。

 昭和基地周辺が一番寒くなると聞いている時期は8月~9月でしたが、6月8日、とうとうマイナス30.3度を記録しました。

 学生時代を除き稚内でしか生活したことのない私には初体験です。

 温度計を持ち出し記念撮影と思いましたが、マイナス30度を下回ったのは夕食後。

 オーロラ観測のため街灯も消され、フラッシュ撮影が禁止されている時間でしたので断念しました。

 焦らなくても、もっと寒い日が間違いなくありますからね。

大雪?

 マイナス30度は記録したものの、6月は天気が悪い日が多く、気温は高めでした。

 ブリザードが吹くと気温が上がり、晴れると放射冷却によって一気に寒くなるのが南極です。つまり、6月は何度も外出制限がかかる吹雪に見舞われました。

 ブリザードはその風速や継続時間によってA級からC級まで段階が付けられますが、そうならない程度の吹雪も多いんです。しかも雪の多い吹雪が…。

 気象観測データ的には降雪量が史上最高レベルで推移しているらしく、除雪が追いつきません。最低限の入口を確保するのが精いっぱいで、見捨てた入口もあります。

 あっという間に2階まで埋まってしまった建物もありますが、屋根の上まで埋めてしまうと雪の重みで建物が心配ですから、最低限それだけは阻止しなければなりません。

天測点から見た昭和基地(4月)天測点から見た昭和基地(7月)
天測点から見た昭和基地(4月)
天測点から見た昭和基地(7月)

※4月に見えていた建物が完全に雪の下です。雪の重みで建物が悲鳴を上げる前に 除雪をしました。

ダンプ操作

【ダンプ操縦(市川隊員運転)】

ときにはこんな作業もしています。




 太陽が昇らない極夜の短い作業時間ですが、機械部門のメンバーは必
死に建物救出のための除雪を行い続けます。私も時々、ダンプで雪を運んでいますが、いくらやっても成果が見えてこない日もあり、皆が挫けないように声がけをする日々が続きます。






ミッドウインターフェスティバル

グリーティングカード

【グリーンティングカード】

※カードは、庶務の仕事です。

 作成には時間がかかりましたが、皆には好 評でした。いかがでしょう?

 日本の夏至にあたる6月22日頃、越冬生活の折り返しとなるこの時期に、南極の各国基地では「ミッドウインターフェスティバル」というお祭りが開催されます。

 もちろん昭和基地も例外ではなく、色々と趣向を凝らしたイベント満載の楽しい時間を過ごしました。

 当然ですがこの期間も通常業務はありますし、途中で見舞われたブリザード後の除雪等もあり、休息の1週間という訳ではありませんが、極夜の一大イベントを皆で楽しもうと、全員で取り組みました。

 ミッドウインター期間のもう一つの楽しみは、各基地間で交わされるグリーティングカードです。

 お互いがミッドウインターを祝福するとともに、エールを交換するものですが、各国、趣向を凝らした楽しいカードを送ってくれます。

 昭和基地からのカードは写真のものです。

 楽しさを表現できたと思うのですがいかがですか?







 カードとは別の場所でも記念撮影をしました↓。(場所:19広場)

記念写真

 記念に…

 記念撮影の場所で、東京の晴海ふ頭出港時に稚内で作ってくれた横断幕を持って記念撮影↓。

稚内からの横断幕を持った記念写真

     ※この横断幕は、横田元市長、手島教育長、成澤課長ほか稚内から見送

    りに来ていただいた皆さんが持ってきてくれたものです。

あれから1年

 6月下旬、これまでを振り返り、今後について考える節目の日がありました。

 稚内の皆さんに温かく見送っていただいた日。昨年の6月28日、私は稚内を離れ極地研究所で準備を始めました。隊員としての正式なスタートは7月1日ですが、そのスタートの準備をこの日に始めたんです。

ゾンデ放球

【ゾンデ放球】

※6月28日、節目の日に「ゾンデ放球」を放球させてもらいました。

 1年はあっという間でした。

 

 先を見るとすでに半分しか残っていません。

 2度と来れないであろう南極。

 ここにたどり着くまでの準備、極地での生活、観測隊員としての働きなどなど、自分の役割をしっかりこなせたのか?これからどうすることが最善なのか?

 振り返っている暇はなく走り続けるだけと思っていた頃もありましたが、越冬生活折り返し時期のちょうど1年が過ぎたこの日、反省ばかりでしたが、少しだけ振り返る節目の日となりました。

 残り半分で何が出来るだろうと焦る気持ちもありますが、目の前にある業務をこなしながら、おもいっきり南極を感じることが出来るよう精一杯、頑張っていきます。


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