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令和5年6月19日
稚内市教育委員会
令和5年第5回稚内市議会定例会の開会にあたりまして、令和5年度「教育行政執行方針」を申し上げます。
わが国を取り巻く社会環境は、少子高齢化の進行、グローバル化やデジタルトランスフォーメーションの進展に加え、不安定な国際情勢、さらには、新型コロナウイルス感染症の流行などにより、急激に変化し、予測困難な状況にあります。
こうした変化の激しい時代において、子どもたち一人ひとりと、子どもたちに関わる全ての人々の幸せを目指すウェルビーイング(Well-being)の考え方が、教育において注目され、本年度から始まる国の次期教育振興基本計画の柱の1つとなる予定です。
子どもたちは、家庭、学校、地域、それぞれの中で育っていきます。ウェルビーイングの考え方では、家庭、学校、地域が共通理解のもとに支え合うことで、子どもたちが安心して自分の力を伸ばしていくことができるとされています。
これからの社会がどのように変化し、予測困難であったとしても、子どもたちが日々変化する社会に対応し、自ら必要な情報を取捨選択しながら、主体的に行動し、様々な困難を乗り越えていく「生きる力」を身につけ、夢や希望に向かって努力することで自己実現を図るとともに、多様な他者と協働しながら持続可能な社会の担い手となるよう、必要な資質や能力を伸ばしていくことが教育の大事な役割です。
これらを念頭に置き、本市の教育行政を推進してまいります。
〇 はじめに、1つ目の柱であります「地域の協働による家庭教育の推進」についてです。
近年、核家族化や地域とのつながりの希薄化などにより、子育ての負担感や孤立感などで子育てに困難を感じている家庭が増えており、家庭における子育てを、地域や社会全体で支えることが重要となっています。
そのような中で、国は、本年4月1日に、こども政策のための新たな推進体制として「こども家庭庁」を設置したほか、6月13日には、次元の異なる少子化対策実現に向けて取り組むべき政策強化の基本的方向を取りまとめた「こども未来戦略方針」を公表しました。
子ども子育て政策の強化に向けた、こうした国の動きを注視しながら、本市としても、より効果的な子育て少子化対策を実現できるよう取り組みを進めていきます。
本市においては、これまでも様々な子育て支援を実施してきており、令和4年度は「子育て世代包括支援センター」を設置し、相談支援体制を充実させるとともに、妊産婦支援の強化や子育て支援と母子保健サービスの一体的な提供など、安心して子どもを産み育てられる体制を整えてきました。
本年度については、「第3期子ども・子育て支援事業計画」の策定に向けたアンケート調査を実施予定であり、子育てに関するニーズ等を把握し分析していきます。
学童保育所は、共働き世帯等の小学生が放課後を過ごす「生活の場」「遊びの場」であり、利用している児童や保護者にとって施設の存在は大きく、ニーズも高くなっています。
かねてから建物の老朽化が課題となっていた中央学童保育所と中央児童館については、令和6年4月を目処に稚内中央小学校に移設します。
本年は、移設にあたる準備期間として、受け入れ先である稚内中央小学校の改修工事を予定しており、運営方法や機能について利用状況や地域資源も含め検討し、より良い居場所づくりに努めていきます。
〇 次に、2つ目の柱であります「次代を担う人材の育成と地域とともにある学校づくりの推進」につ いてです。
本市における学校教育は、「稚内市学校教育推進計画」に基づき、児童生徒の「確かな学力」「豊かな心」「健康な体」のバランスのとれた「生きる力」を育むことを基本観点と捉え取り組んできましたが、これまでの計画の見直しを図るため、令和4年8月に「稚内市学校教育推進計画策定委員会」を立ち上げ、本年2月にその答申を受けたところです。
全国学力学習状況調査において、ここ数年、小学校は全道平均を超え、中学校も全国・全道平均との差が縮まり、年々学力の向上が進んでいるところでありますが、「稚内市学校教育推進計画」は、さらなる学力向上に向けた取り組みのほか、本市における今日的課題や教育活動を進めていく上で具体的な方向性や取り組みが見えるよう整理したもので、令和5年度から令和9年度にかけての計画となっています。
他者との協働の中で、より良い社会としてのふるさと稚内を創造する「わっかない人(びと)」育成を目指し、学校を中心に家庭と地域が力を合わせながら本計画を進めていきたいと考えています。
令和3年5月に市内小学校で起きたいじめ問題について、市教育委員会では重大事態として捉え、令和3年12月にいじめ問題防止対策委員会を立ち上げたところです。結果として、いじめは重大事態には該当しないと報告を受けましたが、学校や教育委員会の対応に問題があったとの指摘も受けたところです。
これを受け、市教育委員会としては改めていじめ防止基本方針の見直しを行い、いじめ問題が発生した際の初期対応や、組織体制の強化を図り、市教育委員会主催の教職員向けの研修なども定期的に行うほか、「いじめは決してしてはいけないこと」という認識を、児童生徒に持たせる取り組みを行ってまいります。
本市では、特別な支援等の配慮を要する児童生徒が年々増加傾向にあります。特別支援教育を維持・発展させ、誰一人取り残さない教育を行うためにも、医療・福祉を含めた専門機関との連携体制の強化や、保護者のニーズに対応できる相談体制づくりを進めてまいりたいと考えています。
中学校部活動は、生徒数の減少に伴い、団体競技を自分の学校で行うことが難しくなってきています。部活動はあるものの、学校単独ではチームが組めず、各校と合同チームで出場するほか、在籍する学校に希望する部活動がなく、拠点校方式を取り入れ活動している部活動もあります。
令和5年度の1年間を検討期間とし、令和6年度より全市的な拠点校方式の部活動への移行と、休日の地域移行について、部活動に関係する団体に協力を得ながら検討を進めていきたいと考えています。
稚内初となる義務教育学校への移行に向けては、稚内中学校の改築完了後、スムーズに移行できる取り組みが必要であり、新たな学校名や校歌のほか、年間の小中一貫した教育課程の編成など、教員や教育研究所等の協力を得ながら検討していく必要があると考えています。
「義務教育学校とはどういう学校なのか」については、保護者や教員、児童生徒等に対し説明を行い、理解を図っていきます。
学校給食につきましては、児童生徒が毎日触れることができる「生きた教材」として活用し、望ましい食習慣の形成や地産地消、地域の食文化や自然の恵み等に対する理解が深まるよう、施設の保守整備や衛生管理に留意しながら安全で安心な学校給食の提供に努めます。
学校給食費助成事業の拡充については、これまで所得制限を設けて下半期分を助成してまいりましたが、この所得制限を撤廃し、全ての子育て世帯の学校給食費負担を半減し、更に、これまで本事業の対象となっていた世帯については、残りの上半期分も助成することで、実質無償化に取り組みます。
令和5年度から学校運営協議会制度、いわゆるコミュニティ・スクールの運用を開始します。学校運営協議会は、保護者や地域住民からなる委員により、学校運営の基本方針の承認及び学校運営への必要な支援に関して協議を行い、「地域とともにある学校づくり」を目指すものです。
本市では、これまで取り組んできた子育て運動を基盤とし、稚内市子育て推進協議会、各地区の子育て連絡協議会を活用し、保護者や地域住民が学校運営に参画することで、当事者としての意識を持ち、子どもの将来像を共有し、地域全体で子どもの成長を支えていきたいと考えています。
〇 次に、3つ目の柱であります「市民の学びを支える地域づくり」についてです。
本年は、友好都市である鹿児島県枕崎市へ本市の中高生を派遣し、青少年交流体験事業を実施します。
この事業は、子どもたちが実際に異文化に触れることや、他地域の同世代との交流を図ることで様々な見識を深め、集団行動や親元から離れた生活の中で規律や協調性を高めることを目的としており、本市の未来を担う若者にとって非常に重要な経験となるものと考えています。
この交流を通じて子どもたちが相互理解と友好の絆を深め、次の世代における両市の発展につながるよう取り組んでいきます。
誰もが気軽に学べる生涯学習の拠点施設である「風~る わっかない」は、今後も多種多様な利用者の生涯学習の活性化につなげるため、施設の機能を充実させるとともに、より効果的な学びや可能性を広げるきっかけとして、生涯学習推進アドバイザーを中心に、施設内に集約されている学校教育関係機関等の人材も活用しながら、学びを支援していきます。
青少年科学館では、子どもから大人まで気軽に科学に触れ、より身近に科学を感じることができる環境をつくります。日常で体験できないようなサイエンスクラブや理科実験教室、簡単な理科実験工作などを実施することで、「科学は不思議で面白いもの」という気持ちを醸成するほか、昨年導入した、デジタル映像番組を活用し、科学や宇宙を楽しみながら学ぶことができる取組を行っていきます。
ノシャップ寒流水族館では、魚類の生態系等を学ぶパネルの展示や、生物を身近に見て触れることができるタッチプールなど、楽しく学べる展示品の整備や事業に取り組んで行きます。
また、施設の改修や付帯設備の更新を計画的に進めるなど、利用者の利便性を考えた施設整備の検討を行います。
市立図書館は大黒地区へ移転してから20周年を迎えます。これを記念して、北海道立図書館や地域ボランティアなどと連携して記念事業を行うほか、高齢化社会を見据えた「シニアコーナー」の創設など、子どもからお年寄りまで、すべての市民が利用しやすい書架のリニューアルを行います。
また、未来を担う子どもたちの学びをサポートするため、図書館として学校に出向き、子どもたちが本や資料に触れる機会を増やし、読書推進の取組を進めていきます。
市内の高等学校に通う生徒たちは、それぞれの将来に期待を膨らませ、進路実現に向けて努力を続けていますが、生徒たちの居住している地域において、放課後や休日に自学自習することが可能な場所が少ないため、公共施設内での実習場所確保のニーズが高まっています。
本市としては、そうした声に応えるため、市立図書館の集会室や文化センター休憩室、風~るのフリースペースを「地域の自習場所」として中学生や高校生に使用していただけるよう努めてまいります。
〇 最後に、4つ目の柱であります「まちの魅力を活かした文化・スポーツ活動の推進」についてです。
市内恵北地区に残る、通称「稚内赤れんが通信所」は民間団体の自主事業として維持管理を行い、本市における歴史的財産を後世まで保存する活動を実施しています。
令和4年度末には、施設に残る3棟のうち2棟が市の有形文化財に指定となりました。今後につきましても、関係機関とさらなる連携を図りながら、文化財の保存はもとより、施設の活用についても推進していきたいと考えています。
市民の文化、芸術活動や交流事業の中には、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、停滞しているものも見受けられます。
地域の伝統や文化が次の世代に引き継がれるよう、文化振興育成補助事業の活用を働きかけるなど、市民が行う文化・芸術活動や交流事業などへの支援を継続してまいります。
みどりスポーツパークを拠点とした、総合型地域スポーツクラブが令和4年9月に設立されました。
このスポーツクラブは、子どもから高齢者まで、目的に応じた多様なスポーツやレクリエーションの機会を提供するもので、地域の誰もが年齢や興味、レベルに合わせて活動でき、市民の健康や体力の増進に加え、高齢者の生きがいづくりやコミュニティの活性化につながるような運営を目指しています。
多くの市民に気軽にスポーツを楽しんでいただけるよう、運営側と行政がしっかりと協力し取り組んでいきたいと考えています。
以上、令和5年度の教育行政の重点的取組について申し上げました。
先ほども述べたとおり、本市では「地域とともにある学校づくり」を目指し、本年度から各地区に順次、コミュニティ・スクールを設立していきますが、これを契機として、キャリア教育の一層の充実を図り、グローバルに活躍する人材のほか、ふるさと稚内に誇りを持ち、地域の課題解決に向け、果敢に挑戦する「わっかない人(びと)」を育成してまいります。
「わっかない人」の育成は「稚内に住み続けたい」「稚内で子育てをしたい」「稚内を離れても稚内に戻りたい、あるいは稚内のために貢献したい」と思ってもらえる市民を育てることであり、こうした人づくりこそ、持続可能なまちづくりの大きな力になると信じています。
また、「幼保小中高大連携」の考えのもと、「わっかない人」の育成を強化するためには、市内の2つの高校と育英館大学の魅力をこれまで以上に市内や宗谷管内の子どもたちに知ってもらい身近に感じてもらうことが重要であり、中高連携、高大連携の強化に向けて、必要な手立てや支援について検討してまいります。
先行きが不透明で、様々な制約が課された生活の中で、不安な気持ちに覆われた3年にわたるコロナ禍からの脱却が見えてきた今、本年度を未来に向かう新たな1年とする、との思いで教育行政を推進してまいります。
市民ならびに議員の皆様の一層のご支援とご協力をお願い申し上げ、令和5年度の教育行政執行方針とさせていただきます。
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