稚内・サハリン クラシック・バレエ交流(2016年8月17~20日)
「ロシア」と聞けば、色々なことを思い浮かべるでしょうか、「芸術の国」というイメージも強いように思えます。ことにバレエは非常に有名です。舞踏のみならず、“芸術点”が在るスポーツの採点競技で、ロシアのチームはバレエのノウハウを基礎に工夫を凝らして高い評価を得ている面も在ります。
そんな「ロシアのバレエ」というものに関心を寄せながら、熱心に活動をしている稚内市内のバレエサークルが在り、「可能であれば、サハリンでバレエの活動をしている皆さんと交流してみたい。指導者の方にレッスンをして頂きたい」という話しが起こり、この程それが実現したのでした。
ユジノサハリンスクでバレエに取組むサークル<シェルクンチク>(※「くるみ割り人形」という意味)の指導者2名と、活動している3名の児童生徒が稚内へやって来ました。
北国の短い夏休みが明けるような時季、未だ暑さが残っていた中でしたが、バレエに取組む大勢の皆さんが集った会場の稚内市総合文化センター、熱い思いに溢れ、真剣に、同時に和やかな交流がなされました。
8月17日
<シェルクンチク>一行が到着する日でしたが、この日は台風への警戒が呼び掛けられていた1日でした。しかし、交通の乱れが顕在化する少し前にユジノサハリンスクからのフライトは新千歳空港に到着することが出来ました。そして、道中は雨模様が続いたものの、予定どおり稚内へ北上することも出来ました。
児童生徒3名は、“和室”にふとんを並べて休むことになりました。初めて体験する方式であったようで、少々驚きながらも、変わった体験を愉しんでいる様子が見受けられました。
今般の児童生徒に限らず、サハリンの「年齢に幅が在る児童生徒のグループ」を迎えると、自然な感じでさり気なく、年上の生徒が年下の児童の面倒を見ている様子が見受けられます。日頃から一緒に活動していることも手伝ってはいるのでしょうが、何時も微笑ましい様子に思えます。今回のグループでも、仲良しの3人姉妹のような感じでした。
長い移動を経て辿り着いた稚内で待ち受けるものへの期待に胸を膨らませながら、この日はお弁当を頂いて休みました。
8月18日
台風が低気圧に変わったということでしたが、稚内ではそうした関係の影響は見受けられず、眩しい青空が広がりました。<シェルクンチク>一行は、荒天が危惧された日にそれをすり抜けて無事に到着し、実質的な活動初日は素晴らしい好天に恵まれました。余り類例を思い出せない程に強運なグループです。
午前中は、初めてやって来た稚内の様子を視ることになりました。
素晴らしい青空の下、稚内公園の丘の上に行けば、眼下に青く輝く海と街や港が拡がっていました。北方記念館を見学し、公園内の幾つかのモニュメントも訪ねました。
この日は、稚内としては「やや珍しい?」感じなのですが、蝉の声が聞こえていました。この蝉達ですが、<シェルクンチク>一行の前に“姿”を見せました。丘の上のブランコ型ベンチの支柱に、不思議な形で、少し鮮やかな色も見受けられる蝉が止まっていたのです。サハリンでも余り見掛けない昆虫であるようで、皆さんは珍しそうに見ていました。
午後からは稚内でバレエに取組む児童生徒の皆さんとの合同練習会です。<シェルクンチク>のインナ・ツァプコ先生が中心になり、アンドレイ・ドルジェフ先生がサポートして練習が進められることになります。
稚内でバレエに取組む児童生徒の皆さんについては、概ね2グループに分けて参加し易い時間帯から加わることとしていましたが、総数で40名弱にもなり、愛好者人口が存外に多いことに驚かされます。
サハリンの3人の児童生徒も練習着に着替えて、稚内側の練習着姿になった児童生徒も順次集まって来ました。同じことに取組む仲間同士であるので、顔を合わせて早速に笑顔が広がります。
稚内側の生徒の中には「メニャー ザヴーット ○○」と名乗る時に使うロシア語の表現を覚えて来ていて、サハリン側の児童生徒に声を掛けている生徒も見受けられました。サハリン側は生徒は、もっと簡単な「私は○○」に相当する「ヤー ○○」と応じていました。
実はサハリン側の生徒達も、稚内側の生徒達と挨拶を交わしたいと、移動の車の中で「オハヨウゴザイマス」、「アリガトウ」等と3人で練習をしていた場面が在りました。こういうような、言葉の壁ということもある他方、サハリン側、稚内側双方の「同じことに取組む仲間同士」の連帯感や、「折角出会えたので、仲良くなりたい」という気持ちが通じ合い、会場は総じて和やかであったように見えました。
今回は、稚内市総合文化センターの大ホール、ステージ部分に舞踏用の床材を布き、そこで練習を行っています。近年、ユジノサハリンスクでは様々な新しい施設が登場していますが、稚内市総合文化センターのような文化活動向けの大掛かりなホールは、余り例が無いと、サハリンの皆さんは驚いていました。
練習が始まってみると、インナ・ツァプコ先生は「時間が経つ毎に力が入って行った」という感じで、情熱的に取組んでいました。当初は「通訳を交えるにしても、言葉が通じない場所での指導は初めてなので、少し不安も拭えない」としていましたが、始まってみれば稚内側の皆さんが真摯に取組む様子にどんどん突き動かされていたような様子でした。
年齢が低い児童が中心の前半では、フロアーでの練習を行いました。年齢が高い児童生徒も加わる後半は、持込んだバーを使っての練習を行いました。
大いに力が入った練習会は、前半、後半共に予定の時間を超えて行われました。終わった後には、サハリン側も稚内側も互いに「また明日も続きが」と笑顔で手を振っていました。
8月19日
午前中の<シェルクンチク>一行は、稚内の街へ出て過ごしていました。朝の間、動き始めた頃には雨が交っていましたが、次第に天候が好転していて、何か非常に「強運なグループ」という感じが続いていました。
午後からは合同練習、夕刻に発表会と親睦会という日程で、精力的に過ごすこととなりました。
合同練習では、初日で「顔見知り」になり、サハリン側と稚内側、指導を行うインナ・ツァプコ先生達と参加児童生徒も「通じ合う」ようになって来たことから、時間を追う毎に熱を帯びた練習が展開していました。この日は「練習後に観客を迎える発表会が控えているので、時間を押してしまわないように」というのが、“最重要注意事項”に掲げられた程で、練習会場は熱気に溢れました。
夕刻には練習に使っていたバーのような道具を全て片付け、練習会場としていた「ステージ部分」を整え、稚内側参加児童生徒の家族を中心とする200名程の観客を大ホールに迎え、『稚内・サハリン クラシックバレエ交流会』の発表会を催しました。
サハリン側からは、短い7曲を取上げ、最年長の生徒であるアンナ・サヴィツカヤさんと男性の指導者アンドレイ・ドルジェフ先生による華やかなデュエットを含む演目が披露されました。稚内側はバレエサークル<キッズ>が1曲、子どもバレエサークル<プリエ>が3曲、最近の発表会で取上げた演目を披露しました。サハリン側、稚内側共に、バレエ音楽の分野では大変に著名なロシアの作曲家、チャイコフスキーの作品が目立ちました。
発表会終了後、互いの華麗なパフォーマンスを観た興奮、舞台を成し遂げた充足と安堵感が滲む、双方の参加児童生徒の笑顔と歓声が溢れていましたが、そうした中で親睦会が催されました。
親睦会では、双方の参加児童生徒達、加えてサハリン側のインナ・ツァプコ先生やアンドレイ・ドルジェフ先生まで浴衣に着替えて臨みました。サハリン側児童生徒は、初めて袖を通す「日本の夏」を思わせる衣装に大喜びでした。
この日は「稚内の基準」としては「蒸し暑い」感じの日でしたが、そんな「暑さ」を遥かに上回るような、むせ返るような「熱気」が親睦会の会場に溢れました。親睦会ではお弁当を頂いて、記念撮影をする等していたのですが、記念撮影は「スーパースター登場」というような熱気さえ漂わせながら、稚内側の皆さんがサハリン側の皆さんと一緒に撮影していました。
インナ・ツァプコ先生は「言葉に出来ない程の想い出が出来た。互いに敬意を払いながら、充実した好い活動が出来た」として、「またの機会を!」としていました。サハリン側の参加児童生徒達も、「色々と(稚内側の皆さんが)話し掛けてくれたのが嬉しかった」、「興味深い街で、素敵な皆さんに出会えた」、「大切な経験になった」としていました。
こうしたサハリン側のコメントを聴きながら、稚内側の参加児童生徒も関係者も大きく笑顔で頷いていました。今般の交流会が、双方の参加者にとって、非常に忘れ難い日々になったことは間違いないようです。
8月20日
<シェルクンチク>一行が稚内を離れ、帰国の途に就く日です。空は明るめではあったものの、時々雨も混じる朝でした。
前日、稚内側関係者の間で「一行の出発時刻?」が話題になっていたので、多少の見送りは予想されましたが、朝の宿泊施設前には大勢の参加児童生徒や保護者が詰め掛けて、「何が始まる?」という雰囲気でした。
サハリン側のインナ・ツァプコ先生が、稚内側の児童生徒達に「練習も好かった。公演も佳かった。きっと巧くなって行く筈だからバレエを続けて欲しいし、またみんなに会いたい」と声を掛けていました。そして「素敵な仲間、“家族”のような仲間に出会えました。稚内で、或いは皆さんの側にサハリンに来て頂いて、また会いましょう!」と、口々に再会を期す挨拶の言葉を交わし、更に抱擁も交わして一行が車に乗り込み出発しました。
稚内市内に相当する辺りの日本海側の道中では、<シェルクンチク>一行を見送るかのように利尻富士の姿も見えたのですが、進みに連れて次第に雨が強くなって来ました。休憩を挟みながら新千歳空港を目指しましたが、多少驚く程度に雨脚が強くなりました。「バリバリ!」と車輛の屋根や窓に強い雨が叩き付け、カーラジオの声が聞こえないような程度になりました。
荒天への警戒も呼び掛けられているような状況下、航空便の運航状況が気になる感じでした。一部に諸般の事情による欠航が見受けられたものの、空港内は「忙しい休日の状況」で、滑走路が見える場所から伺うと、滑走路上の雨水を水煙のように跳ね上げさせながら様々な飛行機が離発着している様が見受けられました。
<シェルクンチク>一行は、往路では余りゆっくり出来なかった空港内の色々なものを興味津々で眺めて少しの間過ごして、荷物を運び込んで搭乗手続きに臨みました。更に、保安検査を経て出国手続きをする場所へ進む際には、稚内の皆さんと何時か再会出来ることを望むと、溢れる笑顔で立ち去って行きました。
荒天への警戒が呼び掛けられるような状況下で強い雨も降っていた中、<シェルクンチク>一行は無事に帰国の途に就きましたが、最初から最後まで強運なグループでした。
今回の交流は、稚内側関係者にとっては「名高い“ロシア・バレエ”というものに触れる貴重な機会」で、サハリン側関係者にとっては「“近くて遠い”ような稚内に、熱心にバレエに取組む人達が居ることを知る機会」となりました。そして双方にとって、「海峡を挟んだ地域に居る素敵な仲間との出会い」の機会になったことは間違いありません。
こうした文化交流に関しては、可能な範囲で継続したいものです。
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